有価証券の問題は、同じ株式でも保有目的によって、評価額も差額の行き先も変わります。さらに洗替・切放・減損・期中の目的変更が重なると、「何と何を比べているのか」が見えにくくなります。
学習メモで注意していたのは、保有目的、評価の比較元、損益か純資産かを先に分けることです。この記事では基本の評価を一覧にして、仕訳と数値例で整理します。外貨換算、債券の利息法、ヘッジ会計の詳しい計算は、ここでは扱いません。
0. まず四つの保有目的を確認する
| 区分 | 基本の期末評価 | 差額の扱い |
|---|---|---|
| 売買目的有価証券 | 時価 | 評価差額は当期損益 |
| 満期保有目的の債券 | 取得原価。金利調整差額があれば償却原価 | 償却額は有価証券利息等。単なる時価変動は通常計上しない |
| 子会社株式・関連会社株式 | 取得原価 | 通常の時価変動は計上しない |
| その他有価証券 | 時価 | 全部純資産直入法、または部分純資産直入法 |
この表は個別会計の基本です。減損の条件を満たす場合は別途処理します。また、市場価格のない株式等は取得原価で評価する取扱いがあるので、「その他有価証券ならすべて時価」とは決めつけません。
答案の科目名にも注意します。「有価証券評価損益」「有価証券運用損益」「投資有価証券評価損」など、問題が指定する名称で答えます。
1. 売買目的:洗替と切放で、途中の仕訳が違う
次の独自の例を考えます。取得原価100,000円、前期末時価108,000円、当期末時価115,000円。前期に取得して評価済み、当期中の売買はなく、税効果は省略します。
洗替法:前期の評価を戻してから、改めて評価する
当期首の振戻し
(借)有価証券評価損益 8,000
(貸)売買目的有価証券 8,000
当期末の評価
(借)売買目的有価証券 15,000
(貸)有価証券評価損益 15,000
当期の純額 = 15,000 − 8,000 = 評価益7,000
当期末の仕訳だけなら15,000円の利益ですが、当期首の振戻しによる8,000円の損失があるので、当期損益は純額7,000円です。
切放法:前期末の帳簿価額をそのまま引き継ぐ
当期末の評価
(借)売買目的有価証券 7,000
(貸)有価証券評価損益 7,000
115,000 − 108,000 = 評価益7,000
どちらも当期末の有価証券は115,000円、当期の純損益は7,000円です。メモの「比較元は違っても、振戻しと相殺すれば当期分になる」は、この条件での話です。
すべての保有目的で、当期末時価−前期末時価を損益にするわけではありません。期中の購入・売却・目的変更がある場合も、単純な期首期末の差だけでは解けません。
2. その他有価証券:全部と部分を銘柄ごとに区別する
別の例です。当期に取得したA株式の原価100,000円・時価120,000円、B株式の原価100,000円・時価90,000円とします。いずれもその他有価証券で、減損には該当しません。
- 全部純資産直入法:Aの評価益20,000円も、Bの評価差損10,000円も、純資産へ。
- 部分純資産直入法:Aの評価益20,000円は純資産へ、Bの評価損10,000円は当期損益へ。
部分純資産直入法で、二銘柄を先に相殺して「全体で10,000円の評価益だから純資産へ」とすると、Bの損失が抜けます。まず各銘柄の損益を判定し、その後に集計します。
全部純資産直入法の仕訳:税率30%の例
税務上は売却まで評価差額が認められず、一時差異が生じる設定です。繰延税金資産の回収可能性は認められるものとします。
A株式の評価
(借)その他有価証券 20,000
(貸)繰延税金負債 6,000
(貸)その他有価証券評価差額金 14,000
B株式の評価
(借)繰延税金資産 3,000
(借)その他有価証券評価差額金 7,000
(貸)その他有価証券 10,000
評価差額金の合計は14,000−7,000=貸方7,000円です。この評価仕訳の税効果は純資産に対応させているため、法人税等調整額は登場しません。
部分純資産直入法では、評価損の税効果も損益へ
Aの仕訳は同じです。Bは次のように、評価損を損益へ計上します。
(借)投資有価証券評価損 10,000
(貸)その他有価証券 10,000
(借)繰延税金資産 3,000
(貸)法人税等調整額 3,000
Bによる税引後の利益減少は7,000円。Aに対応する評価差額金は14,000円です。税効果の詳しい検討は別論点ですが、ここでは評価差額の行き先と税効果の行き先をそろえる関係を押さえます。
3. その他有価証券の通常の評価は洗替方式
その他有価証券の通常の評価差額は、洗替方式で処理します。売買目的の問題で切放法が指定されているからといって、その他有価証券も切放法にするわけではありません。
期首に前期の評価仕訳と税効果を戻し、期末に再評価する流れを確認します。試算表に戻し済みの残高があるなら、整理仕訳で同じ振戻しを重ねません。
特に、全部純資産直入法では、通常の評価差額は損益ではなく純資産に入ります。「前期末との差だけを当期評価益にする」という売買目的の近道を、こちらへ持ち込まないようにします。
4. 減損は、通常の評価差額と別に考える
売買目的以外の有価証券でも、時価の著しい下落等があり、回復の見込みが認められない場合には、損失処理が必要です。全部純資産直入法の指定があっても、減損損失まで純資産へ入れるわけではありません。
時価のある有価証券では、取得原価から50%程度以上の下落が重要な判断目安です。30%以上50%未満でも、企業の合理的な基準や回復可能性を検討します。「50%に届かなければ減損なし」という絶対ルールにはしません。
原価100,000円、期末時価40,000円の例
当期取得のその他有価証券で、著しい下落があり、回復の見込みを示す合理的な根拠がないとします。税効果は省略します。
下落率 =(100,000 − 40,000)÷ 100,000 = 60%
減損損失 = 100,000 − 40,000 = 60,000
(借)投資有価証券評価損 60,000
(貸)その他有価証券 60,000
翌期首には40,000円を新しい取得原価として扱います。年度決算で行ったこの減損を、通常の評価差額の洗替と同じように翌期へ戻しません。中間・期中の特別な処理は、この例の範囲外です。
翌期末に時価が55,000円へ上がった場合、全部純資産直入法なら、新しい原価40,000円との差15,000円を通常の評価差額として純資産へ計上します。元の原価100,000円に戻す仕訳や、減損戻入益15,000円を計上する仕訳ではありません。
5. 保有目的変更は、変更日を境に分ける
保有目的は、評価損益を都合よく動かすために自由に変更できません。売買目的からその他有価証券への変更は、資金運用方針等の変更でトレーディングを行わなくなるなど、認められる条件がある場合です。
条件を満たす変更について、変更前の区分による処理 → 振替 → 変更後の期末評価の順に並べます。
売買目的からその他有価証券へ:切放法の例
前期末から引き継いだ帳簿価額108,000円、変更日の時価112,000円、当期末時価120,000円とします。当期中にトレーディングを行わない方針へ変更し、振替が認められる条件を満たす設定です。振替後は全部純資産直入法、税効果は省略します。
変更日までの評価
112,000 − 108,000 = 評価益4,000
(借)売買目的有価証券 4,000
(貸)有価証券評価損益 4,000
変更日の振替
(借)その他有価証券 112,000
(貸)売買目的有価証券 112,000
期末評価
120,000 − 112,000 = 評価差額8,000
(借)その他有価証券 8,000
(貸)その他有価証券評価差額金 8,000
当期の損益は変更日までの4,000円、変更後の評価差額は純資産の8,000円です。120,000−108,000=12,000円をすべて評価益にしないようにします。
子会社株式・関連会社株式が関わる振替
売買目的から子会社・関連会社株式になる場合と、その他有価証券からなる場合では、振替額の規定が異なります。また、その他有価証券の部分純資産直入法で評価差損を計上している場合には、振替額に関する注意があります。
子会社・関連会社株式の一部売却で区分が変わる問題は、まず売却した部分の原価と売却損益を求め、残った株式を振り替えます。売却した部分の売却益と、残った部分の振替・期末評価を分けること。ここは個別会計であり、連結上の段階取得や支配喪失の処理は別に検討します。
6. 売却・買戻しの合意があり、金融取引とする場合
学習メモには、有価証券を売ったように見えても、買戻しの合意により「金融取引として処理する」と指定された問題がありました。その場合、実質的な借入れとして有価証券を帳簿に残します。
別の例として、帳簿価額70,000円のその他有価証券を差し入れ、80,000円を受け取ったとします。消滅認識の条件を満たさず、金融取引とする指定です。
(借)現金預金 80,000
(貸)短期借入金 80,000
受取額80,000−帳簿価額70,000=10,000円を売却益にしません。この有価証券は残っているので、期末時価が75,000円なら、通常の評価対象にも含めます。全部純資産直入法・税効果省略なら、評価差額金は5,000円です。
半年後の買戻代金が81,000円で、差額1,000円を借入利息とする設定なら、その利息は期間に応じて処理します。入金時点で将来の利息を全額費用にするわけではありません。問題にある時価や買戻額は、問われた時点・処理によって使うかどうかが変わります。
7. 株式分割と試算表の計上済み損益も確認する
株式分割で200株が400株に増えても、取得原価の総額が自動的に増えるわけではありません。例えば取得原価総額60,000円なら、1株当たり原価は300円から150円になります。分割後の株数で時価を計算し、原価総額との比較を行います。
また、整理前試算表に有価証券運用損益等があれば、当期首の振戻しや期中売却がすでに含まれているかを確認します。期末整理で求めた差額だけを、そのまま損益計算書の答えにしないようにします。
8. 試験前のチェックリスト
- 保有目的と、市場価格の有無を確認したか。
- 比較元は取得原価・償却原価・前期末簿価・変更日の時価のどれか。
- 洗替の振戻しが、試算表に処理済みか。
- 全部・部分純資産直入法を銘柄ごとに適用したか。
- 通常の評価差額と減損を区別したか。
- 目的変更が認められる条件と、変更日を確認したか。
- 金融取引とした有価証券を、評価対象から外していないか。
解く順番は、保有目的 → 処理済み残高 → 期中取引 → 減損判定 → 評価差額 → 税効果 → 表示。銘柄ごとにこの順で横一列に並べれば、差額の行き先を追いやすくなります。
参考:企業会計基準委員会「金融商品に関する会計基準」第15〜22項、「金融商品会計に関する実務指針」第85〜89項・第91項。2022年度適用の出題区分を土台に、学習メモの基本論点を整理しています。
動画でも確認したい方は、こちらの「有価証券の評価と保有目的変更の解説動画」をご覧ください。