売価還元法で迷いやすいのは、掛け算そのものよりも、「どの原価率を使うか」「どの売価に掛けるか」です。期末帳簿売価と実地売価を取り違えると、棚卸減耗損までずれてしまいます。
学習メモには、まず期末商品を計算し、差額で売上原価を出すという基本と、売上から帳簿期末売価を推定する応用の両方を残していました。この記事では、売価還元原価法と売価還元低価法を一つの例で比べます。
0. 先に押さえる結論
- 原価の資料と売価の資料を、最初に左右へ分ける。
- 正味値上額は「値上額−値上取消額」。正味値下額は「値下額−値下取消額」。
- 原価法の原価率は、売価の分母に正味値下額も反映する。
- 低価法の原価率は、分母から値下額・値下取消額を除外する。
- 期末帳簿売価を求めるときは、低価法でも値下げを反映する。
- 減耗と評価損を別に答えるのか、売上原価に含めて答えるのかを確認する。
「低価法では値下げを使わない」という覚え方では不十分です。使わないのは、原価率を計算する分母の値下げ。残っている商品の売価を計算するときまで値下げを消すわけではありません。
1. 原価と売価の資料を分ける
次の独自の例を使います。金額は円です。返品・割戻し・見本品等はなく、棚卸減耗損と商品評価損は売上原価に算入する設定です。計算結果に端数は出ません。
| 項目 | 原価 | 売価 |
|---|---|---|
| 期首商品 | 1,900 | 3,000 |
| 当期純仕入 | 9,500 | 15,000 |
| 値上額 | ― | 2,500 |
| 値上取消額 | ― | 500 |
| 値下額 | ― | 1,500 |
| 値下取消額 | ― | 500 |
| 売上高 | ― | 14,000 |
| 期末実地売価 | ― | 4,500 |
販売可能商品の原価 = 1,900 + 9,500 = 11,400
正味値上額 = 2,500 − 500 = 2,000
正味値下額 = 1,500 − 500 = 1,000
値下げ反映前の売価 = 3,000 + 15,000 + 2,000
= 20,000
値下げ反映後の売価 = 20,000 − 1,000 = 19,000
値入額が示されている場合、仕入商品の売価は「仕入原価+値入額」です。原価と値入額を足して売価を求めた後、さらに同じ値入額をもう一度足さないようにします。
2. 原価法と低価法の原価率を並べる
売価還元原価法
原価法の原価率 =(期首原価+純仕入原価) ÷(期首売価+純仕入売価+正味値上額−正味値下額) = 11,400 ÷ 19,000 = 60%
売価還元低価法
低価法の原価率 =(期首原価+純仕入原価) ÷(期首売価+純仕入売価+正味値上額) = 11,400 ÷ 20,000 = 57%
この例では、低価法のほうが分母が大きく、原価率が低くなります。値下げ後の期末売価に低い率を掛けることで、評価の切下げを反映する関係です。
ただし、原価率だけを見て判断しません。売価還元低価法には、値下額等が売価合計額に適切に反映されているという前提があります。また、値下げがない場合など、両者の率が同じになることもあります。
3. 期末帳簿売価と実地売価を分ける
販売可能商品の売価19,000円から売上14,000円を引くと、帳簿上残っている商品の売価は5,000円です。
売価のBOX 期首売価 3,000 売上 14,000 純仕入売価 15,000 期末帳簿売価 5,000 正味値上額 2,000 正味値下額 −1,000 合計 19,000 合計 19,000 期末帳簿売価5,000 − 実地売価4,500 = 減耗売価500
このBOXの値下げ1,000円は、原価法でも低価法でも反映します。帳簿売価5,000円と実地売価4,500円は、どちらも値下げを反映した同じ売価の基準です。
棚卸減耗は数量が足りないことによる差、商品評価損は実際に残っている商品の評価が下がったことによる差です。横の差を減耗、縦の率の差を評価として分けると整理できます。
4. 減耗と評価損を別に示す解き方
売価還元低価法を使い、損益計算書に棚卸減耗損と商品評価損を別掲する場合を考えます。
① 帳簿上の期末商品を原価法の率で求める
期末帳簿商品の原価 = 5,000 × 60% = 3,000 整理前の差引売上原価 = 11,400 − 3,000 = 8,400
② 減耗を原価法の率で求める
棚卸減耗損 =(5,000 − 4,500)× 60% = 300
ここでは帳簿にあった商品の原価から、なくなった分を取り除いています。
③ 実際に残っている商品の評価を切り下げる
商品評価損 = 4,500 ×(60% − 57%)= 135 期末商品の貸借対照表価額 = 4,500 × 57% = 2,565
評価損の対象は、減耗後に残っている実地商品4,500円です。帳簿売価5,000円に率の差を掛けると、なくなった商品まで評価してしまいます。
期末帳簿商品の原価3,000 = 棚卸減耗損300 + 商品評価損135 + 期末商品2,565 最終売上原価 = 8,400 + 300 + 135 = 8,835
5. 損失の内訳を求めない場合は、期末商品から差し引く
答案用紙が損失を別に求めず、売上原価に含める設定なら、実地売価に低価法の率を掛けて期末商品を求め、その残額を売上原価にできます。
期末商品 = 4,500 × 57% = 2,565 売上原価 = 1,900 + 9,500 − 2,565 = 8,835
先ほどの8,400+300+135と一致します。この計算には、減耗と評価の影響がすでに含まれています。ここに300円や135円を追加すると、損失を二重に計上します。
答案用紙に「期末商品棚卸高」がある場合も、その欄が帳簿上の原価を求めているのか、実地・評価後の額を求めているのかを、他の欄と問題文で確認します。欄名だけで決めつけないのが大事です。
6. 原価法でも、正味売却価額の確認は必要
売価還元原価法を指定されているからといって、収益性の低下を無視できるわけではありません。この例の実地商品の原価は4,500×60%=2,700円です。
別の条件として、この実地商品の正味売却価額が2,500円と与えられていれば、商品評価損は2,700−2,500=200円。貸借対照表の商品は2,500円、減耗300円と評価損200円を売上原価に算入する場合の最終売上原価は8,900円です。
これは、前節の低価法の計算とは別の評価条件を置いた例です。実地売価と正味売却価額は同じ数字とは限らないので、販売直接経費等の控除がある資料も見落とさないようにします。
7. 売上から帳簿期末を逆算する問題
メモに残していた応用は、実地期末売価だけが示され、帳簿期末や減耗を逆算するパターンです。上の原価法の設定なら、売上14,000×60%=8,400円から、帳簿期末原価11,400−8,400=3,000円を求めることもできます。
基本の「期末商品を求めて差額で原価を出す」流れを理解したうえで、同じ関係式を逆に使う方法です。売上と売価BOXの基準が一致し、同じ率を適用できることが前提なので、返品・見本品・値引きなどの資料があれば先に整理します。
8. 試験前のチェックリスト
- 原価と売価を別欄にしたか。
- 値上取消と値下取消の符号を間違えていないか。
- 低価法で除外する値下げを、帳簿売価のBOXからも消していないか。
- 減耗は帳簿と実地の差、評価損は実地に対する切下げになっているか。
- 売上原価に含まれた損失を、もう一度加えていないか。
- 端数処理は原価率と金額のどちらで行う指示か。
解く順番は、原価・売価の整理 → 原価率 → 帳簿売価 → 実地売価 → 減耗・評価 → 最終原価。途中の数値に「帳簿」「実地」「原価法」「低価法」と書くだけでも、使う数字が明確になります。
参考:企業会計基準委員会「棚卸資産の評価に関する会計基準」第6-2項・第13項。2022年度適用の出題区分を土台に、学習メモの売価還元法を整理しています。